2010年3月1日月曜日

ナメクジウオの末裔

15分以上、休みなく連続して泳いでいると、
気分がだんだん高揚してきて、このまま永遠に
どこまでも泳いでゆけそうな気になってくる。
なんだか魚になった気分なのである。

水泳仲間のYさんは「これがスイマーズ・ハイというやつだよ」
と教えてくれた。ランナーズ・ハイとかクライマーズ・ハイ
というのは聞いたことがあるけど、
どうやらスイマーズ・ハイもあるらしい。

マラソンみたいに長時間泳ぎ続けていると、
脳内麻薬と呼ばれるエンドルフィンが分泌される。
この神経伝達物質はモルヒネの6倍以上の鎮痛作用があり、
恐怖や苦痛から精神を解き放してくれるという。

この一瞬ハイになった高揚感は、一種の酩酊状態に近く、
荒かった呼吸も次第に楽になってくる。そして、
極楽できれいな天女の舞をながめているような
ゆったりした気分になってくる。

実際はひどく疲れているはずなのだが、
エンドルフィンが分泌されている間は、
そのことを忘れさせてくれるようで、
まるでマイケル・フェルプス
になったみたいにスイスイと泳げるのである。
しかしそのハイな状態は長くは続かず、
再び魚から人間に舞い戻ってあたふたする。

あのラリった状態はマリファナを吸った時の気分
(もう時効でしょうがロサンゼルスの友人宅で吸ったことがあります。
ゴメンナサイ。もっとも彼は健康食品だとうそぶいていましたがね)
に近いかもしれない。そのためかどうか、一度味をしめたスイマーたちは、
あの状態にトリップしたいと、再び三度挑戦する。

人間の祖先はナメクジウオに近い生き物だったという。
何億年も前の話だが、その遠い記憶が、
泳いでいる時にふと蘇り、自分がヒトであることを
一瞬忘れかける。

僕の好きな内田樹(たつる)はこう言っている。
《人間の身体についてのすべての修行は、
人間が身体を持っていることを忘れさせるためにある》

そう、僕は密かにサカナになることを夢見ている。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

今回教えて下さったモルヒネの6倍もの鎮痛作用を持つと云う神経伝達物質エンドルフィンを何処かで買えません?
天女の舞も見たいのですがそれより半年も悩まされている50肩の治療に使えればな~と!病院で処方してくれませんかね? 少々高くても、女房を質に入れてでも買いたい
ものです。一日の内少しでも痛さを忘れハイになりたい!!!

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

匿名様
メールありがとう。
エンドルフィンを処方してほしいとのことですが、僕には専門的なことは分かりません。「女房を質に入れてでも……」という必死の思い、よくわかります。女房はいつだって質に入れたいですものね。もっとも質草になれば、の話ですが……。