2010年8月15日日曜日

娑婆も業火に焼かれ

暑さのせいか、だれもみな恐い顔をしている。
ちょっと身体がぶつかっただけでも暴発事故が起こりそうで、
人混みが、恐い。

「もっと気楽に行こうぜ、ベイビー!」
恐い顔をした人たちに陽気に声をかけたいところだが、
当の僕がいちばん恐い顔をしているのだから始末に悪い。

カミュの『異邦人』の主人公・ムルソーは殺人の動機を、
ギラギラと照りつける太陽のせい、とした。
判決は死刑だった。が、彼は幸福だった。

日本が敗けた8月15日の今日、
母の顔を見に行った。siblingsはみな集まって酒盛りをしていた。
そのかたわらで、老母は子や孫たちの顔をじっと見ていた。
母はますます幼児化し、半分、猫になっていた。

ほどなく、弟夫婦と近くの寺まで送り火をした。
墓には残照が激しく照りつけ、軽いめまいさえ覚えた。
父の墓の近くには、自殺した友人Yの墓もある。
花と線香を供え、若き日の友の顔を思った。
「よく来たな。ずいぶんお見限りだったじゃないの……」
相変わらず口元にsneerな笑いを浮かべていた。

地獄の釜が開くという盂蘭盆。
精霊たちも、娑婆に戻ったはいいけれど、
この猛暑には呆れただろう。
「おやじ、まあビールでも飲みなよ。ところで、
地獄の景気はどんなあんばいだい?」

温帯から亜熱帯になってしまったニッポン。
そのうち熱帯に変わって、ますますビールが売れるだろうが、
ニンゲン様の顔はますます険悪になっていくだろう。
そして第2、第3のムルソーが出てくるたんびに世間は驚いたふりをして、
人間存在の不条理性がどうしたこうしたと、妙な理屈をこね始めるのだ。
かったるいなァ……。

今夜も寝苦しい夜になりそうだ。
何も考える気がしない。

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