2012年5月23日水曜日

『GOD IN A CUP』(カップの中に神を見た)

カフェ・バッハの大番頭Nさんから『GOD IN A CUP』という本を読めと薦められた。
Nさんは滋賀医科大のT博士から読むことを勧められたらしい。T博士とは、
例の〝ひょっこりひょうたん島の博士〟にそっくりなコーヒー狂いの医学博士
(本業はガン抑制遺伝子の研究)で、人気ブログ「百珈苑」の主宰者でもある。
聞けば、コーヒーに関する文献資料は世界中からかき集めているというから、
この手のお手軽本などは食後のデザート代わりにホイホイ読み飛ばしているのだろう。

著者のWeissmanは『ニューヨークタイムズ』や『ワシントンポスト紙』などに
食文化論的な記事を寄稿している女性記者で、この本の中ではスペシャルティコーヒー
に魅了された3人の男たちを追っかけている。

本の副題はThe Obsessive Quest for the Perfect Coffee(完璧なコーヒーを求めて)
というものだから、簡単に云ってしまうと、アメリカ版の『コーヒーに憑かれた男たち
ということになる。話の中心人物はシカゴIntelligentsiaのGeoff Watts、
ノースカロライナ・ダーハムはCounter CultureのPeter Giuliano、
そしてポートランドStumptownのDuane Sorensonだ。
この3人がアメリカ版の〝御三家〟ということになる。

いまアメリカでは〝The Third Wave(第3の波)〟と呼ばれるコーヒー熱が高まっている。
スタバやピーツコーヒー&ティーといった大規模チェーン店ではなく、きわめてローカルな
ロースター兼コーヒーショップが注目を集めているのだ。これらの新興勢力はスタバなどより
はるかに高品質なコーヒー、すなわちスペシャルティコーヒーを直接農園から買い付けている。
そしてプロバットやゴットホットというヴィンテージ物の機械でていねいに焙煎するのである。

サードウェイブのコーヒーショップはエスプレッソよりドリップを基本にしている。
といっても日本の御三家みたいに「ネルがいい、いやペーパーだ」という世界とは
趣を異にしている。通読した限りでは、日本の御三家やそれに続くコーヒーの
〝小鬼〟たちのほうが〝くるくるぱー度〟はずっと上のような気がする。
ひとつことに集中し、道を究めようとする思いの強さは、ひいき目の買いかぶりで言えば、
日本人のほうが一枚も二枚もうわてという印象だ。ただしその求めんとする道筋が、
グローバルスタンダード(そんなものクソ食らえだ!)からはちょっぴりズレている(笑)。

さて米国の御三家も、ニカラグアやルワンダ、ブルンジ、エチオピア、さらにパナマへと
産地めぐりをしていくうちに、産地や農民、物流などが抱える問題点にぶち当たり、
ひとしきり悩んだりする。富める国と貧しい国、搾取する側とされる側、コーヒーを
介したアメリカの政治的思惑やSCAAの皮算用。「SCAAなんてクソ喰らえだッ!」などという
悪態も飛び出してくるくらいだから、単なる南北間の経済格差という問題だけでなく、
さまざまな問題に直面した御三家各人の対応が描かれる。

そして例によってパナマのゲイシャ種の登場だ。エスメラルダ農園を中心に話は進むが、
その間にカッピング審査などの詳細な描写も出てくる。おまけに「丸山珈琲」の社長まで
顔を出すのだからサービス満点だ。登場シーンをひろってみると、カッピング会場で、
《ケンタローだけは平然としていた》はいいのだが、《still as a yogi ヨガの行者みたいに
じっと動かなかった》には笑ってしまった。アメリカ人って奴は、東洋人と見るや決まって
ヨガや禅と結びつけたがる。もっともyogiだけにヨガは丸山氏の余技なのだろう(笑)。

T博士によると、いくつか事実誤認百珈苑BLOG参照)があるとのご指摘だが、
ストーリー自体は悪くはない。英語だってボクが読める(理解してるかどうかは怪しい
くらいだから、さほど難解なものではない。←思いっきりミエ張ってる

個人的に面白かったのはパナマ・ドンパチ芸者のほうがエスメラルダ芸者より、
いつだってちょっとばかり〝おいしい〟と書いてあることだ。
ドンパチのセラシン親子と仲のいいバッハの田口さんには嬉しい本だろう。

そのうちに気をよくしたヨガ行者がすばらしい名訳(迷訳?)で翻訳出版するかも
しれないので、乞うご期待だ。






←アメリカ版の『コーヒーに憑かれた男たち』だな。
本家本元のほうが断然面白いけど……(笑)

2 件のコメント:

履歴書の書き方 さんのコメント...

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

履歴書の書き方様

お褒めをいただき恐縮です。
いつでも遊びに来てください。