2013年1月21日月曜日

葦鶴を生きる

正月の2日、長野・松代に行った折、蓮乗寺に詣でた。
ここにはNHKドラマ『八重の桜』にも出てくる佐久間象山の墓がある。
京都の妙心寺より分葬されたもので、この寺は佐久間家累代の菩提寺でもある。

象山は開国思想家で、後に京都で凶刃に斃れてしまうが、
門下生でもあった吉田松陰の密航を激励した人物としても知られている。
夷の術をもって夷を制す――象山の外国に対する基本的戦略はこれだった。
敵に大鑑あらば、我もまた大鑑を造るべし。敵に巨砲あらば、我もまた巨砲を造るべし。
近代文明の象徴でもある黒船に対しては、我々もまた富国強兵策を採用し、
海の守りを固めなくてはならないと説いた。

佐久間象山は傲岸不遜な男で、勝海舟などは大ボラ吹きといって敬遠していた。
同じく大ボラ吹きといわれた海舟だけには言われたくないと思っただろうが、
とにかく「俺の言ってることは正しい」と鼻につく言い方をする男だったようで、
思想家としては高い見識の持ち主ながら、周囲からはたいそう煙たがれた。

海舟はいわゆる「幕末の三舟」と呼ばれるうちの一人で、他の二人が山岡鉄舟と
高橋泥舟だ。泥舟は徳川慶喜の護衛役を務めた槍の名人で、山岡鉄舟の義兄でもある。
また泥舟の兄はやはり槍術の天才と謳われた紀一郎こと山岡静山。
27歳で夭逝してしまうが、静山の木刀にはこんな文句が刻まれていたという。

    
            無道人之短(人の短を道(い)う無かれ)
     無説己之長(己の長を説く無かれ)

泥舟は戊辰戦争に敗れた後は草莽に隠れてしまうが、明治政府から出仕するよう
懇請されると、総理大臣ならやってもいいよ、とからかった。主君の慶喜が
隠遁生活をしているというのに、自分が明治政府の顕官要路の人となれば、
主君を売ったことになる。至誠をモットーとするこの男にそんなマネができるわけがない。
そして詠んだ歌がこの狂歌だ。

    狸にはあらぬ我身もつちの舟 漕ぎいださぬがカチカチの山

自分を『カチカチ山』のタヌ公に見立てた洒落っ気のある歌である。
泥舟は字がうまいし、絵もうまいので、書画の売り食いで露命をつないだ。
そしていつ死んだか分からないような消え方をした。
泥舟はこんな歌も詠んでいる。

    野に山によしや飢(う)ゆとも葦鶴(あしたず)の むれ居る鶏の中にやは入らむ

自分は気高く美しい鶴。たとえ野山に飢えることになっても、鶏舎の中に飼われた
ニワトリの群れの中に入っていくようなことはしない――と。カッコいいですね。

晩年、泥舟は髑髏(どくろ)の絵ばかり描いていた。随筆の中には、
美妃と醜婦、貴賤貧富とに論なく、ひとしくこの髑髏となるを免るる者なし
とある。まさにニヒリズムの権化と化している。

生きているときの栄華だとか美貌に何の意味があろう。この世はすべて夢まぼろし。
人間の存在など仮のもので、一生を終えればみな等しく骸骨になってしまう。
人間なんてものは、所詮我欲にとり憑かれた醜い骸骨に他ならない――。

そういえば、漱石もまた同じような無常観あふれる句を詠んでいる。
25歳の若さで早世した嫂・登世の死を悼み、詠んだ句がこれだ。
     
     骸骨やこれも美人のなれの果て

嗚呼、負け惜しみといわれたっていい。
おまえには土台無理な相談だよ、といわれてもいい。
ボクは泥舟のように生きたい。
葦鶴のような凛とした生き方がしたい。
そして、ふっと消えるように生涯を閉じたい。






←俗に貧すれば鈍するというが、高橋泥舟は
気高い鶴であろうとする気概の人でもあった。
こんなカッコいい男が、ほんのちょっと前の
日本にはゴロゴロいたのである。
日本の学校では、なぜこういう偉人傑人の
生き方を教えないのだろう。

8 件のコメント:

人魚姫 さんのコメント...

労様こんばんは♪

アシタズ、ですね。
明日になったら、忘れてるでしょう。アハッ

群れないってカッコイイですね。
私も、いちおう目指してるつもりです。

気が付いたら、誰もいなくなってただけ
だったりして....。 アハハー

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

人魚姫様

たずは「田鶴」と書き、歌語では鶴の異称
なのです。ですから「たづ」とも書きます。
美しい言葉ですね。

姫も群れるのがお嫌いとのこと。
ボクも大ッ嫌いです。

娘たちには子供の頃から
「人と群れるな!」と教えてきました。
でもfacebookなんかやってると、
不特定多数が「いいね!」とやったり、
「友達申請」が来たりします。
友達でもないのに友達と偽って
ネットワークを築くのは、
まさに〝群れる〟行為そのものです。

会社の上司が部下に申請を出すことも
あるようで、一種のパワハラではないか、
といわれています。

日本では不必要に群れていないと〝いじめ〟の
標的にされたりするので、群れることで
自分の存在を限りなく「無」に近づけ、
目立たないようにしている。
生きる知恵なのでしょうかね。

姫は少し変わり者?ですから、
群れるのは似合わないですね。

ありのままでいいんです。
ありのままが一番美しい。

Nick's Bar さんのコメント...

ROUさん、こんにちは。

私は基本群れることは嫌いじゃないです。

たとえて言うなら、顕微鏡の下で牛乳の脂肪がちょこちょこ動き回るブラウン運動みたいに無秩序に群れている感じです。

何かするときは、やっぱり一人が良いですね。バンドは別ですが、バイクはソロで走るところに満足感を得ます。

あー、あと酒飲むときは一人より二人が良いですねぇ。そろそろ新年会企画してください。私より年上なんだから、ちゃんとイニシアティブ撮ってくださいよ。

では。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様

たしかにバイクはソロがいいな。タンデムなんてとんでもない。それも男同士で抱き合って
走るなんて。←以前やったよね。やっぱ気色悪かったね。NICKさんは嬉しがってたけど。

酒は2~3人がいいな。ひとり酒って、
きらいなんだよな。あれはさみしくっていけないや。

新年会の企画ですか。ヒマならいつでもいい
のだけれど、あいにくヒマじゃない。
原稿書きでヒィヒィ言ってるんですよ。

それとね、「年下」だからって威張ってるけど、ボクとたいして違わないじゃないの。
先に逝くのはそっちなんだから(笑)、
もっと謙虚にならなくっちゃ。

じゃあ、死んだ気になってやっちゃう?
どうせ編集者に殺されるんだから、
先回りして酔死しちゃおう。

というわけで日曜日にやりまひょか。
たまには後輩におごらせてやるよ。

Nick's さんのコメント...

ROUさん、こんにちは。

誤解を受けるのはものすごく嫌なので訂正をしておきますよ。

私のバイクには同乗者ように背もたれがついていて、ROU師は同乗の際、そちらに寄りかかっておられたので小生には触れておりません。

小生も平日はさほど暇ではありませんが、週末くらいは予定も入れず(このところ毎週土曜はつぶれてますが・・・)ぼやっとしております。ちなみに日曜は大丈夫です。

大兄におごるなど非礼な真似は万死に値する行為と自覚しております。まぁ, Dutch tradeぐらいでいかがでしょうか?

お先に逝く可能性がないとは申しませぬが、大兄が左様にお考えなら先立つ者に暖かい慈悲のお心をお与えくださいませ。

という事でDutchから2:3くらいに変更という事で(もちろん2はこちらです)

また、ご連絡申し上げます。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様

そうやってムキになるところがカワユイ。
そうでしたね、ボクは指一本ふれていませんので、NICKさんのファンはご安心ください。

ところでさしつさされつもいいのだけれど、
きれいどこは今回も無し?

むさくるしい男同士で飲むの?
たまにはピチピチムチムチした若い娘
なんかと、
♪あなた開いて わたしがさして
てなことを隠微にやりたいのだけれど……
ムリな注文かしら?

なんか憂鬱になってきた。

Nick's さんのコメント...

ROUさん、こんにちは。

美辞美辞無知無知ならいともたやすいご注文でありますが、それではROU師の矜持に傷がつきましょう。

俗物な私と違って孤高のもののふであられますので。

という事でむさくるしい男同士でやりましょう。


もしかしたら、塩梅の適当な方のご同席を願うべく画策は致すやもしれません・・・

まぁ、期待せずにお待ちくださいませ。

それはそうと、退職金減額にまつわる埼玉の教員早期退職・・・

思うに、戦後日本は、ポンと出てきた欧米型の民主主義と、日教組何ぞという「労働者教師」中心の教育の結果、個人の権利主張と個人の幸福追求は非常に盤石な国となりました。

反面、自分の「責任」に対しては非常に意識が低くなり、何か事あれば他人の責任を厳しく追及するということがまかり通り、それが民主主義としての正義であるかのごとく認識されているように思います。

そうやって考えると早期退職の110人、持てる権利を行使してるだけだし、3月まで働くと150万も減額されるとなれば、やめるでしょう。

だって、責任は少なくとも最優先事項にはなってないわけでしょうから。

退職する人ってそういう年代の方でしょ?

「先生は偉い」と盲目的に納得できる時代はとうに過ぎ去っておるのですよ。

後半のほうがROU師の書かれた内容にふさわしいですかな?

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様

早期退職の教師の問題ね。担任だった人も
何人もいるそうですね。
ボクだったらやはり辞めませんね。
たかだか150万円ぽっちで、
「あのセン公、退職金が惜しくて生徒を
捨てたんだってさ……」
後世まで祟られたらかなわんもの。

ボクは教師をことさら聖職だとは
思わないけど、こどもの前で教師の
悪口を言ったりバカにしたりするのは
いけないな。
やはり一片の敬意は払わないと。

ただし日教組のおバカさんたちは別。
あの連中は存在自体が国益を損なう
もので、まさに〝害虫〟と言っていい。
こどもたちに計り知れないほどの悪影響を
与えます。

彼ら日教組の教員たちには退職金も
必要なし。むしろ罰金を科したいくらいです。
あの害虫どもが日本から一掃されることを
願って、乾杯しましょう。
カンパ~イ!