2013年1月29日火曜日

時間泥棒よ去れ!

わが家にはドイツ語の絵本が数冊ある。
ボクはドイツ語を少しばかり囓ったから、辞書片手なら読めないこともないが、
わざわざそこまでしてドイツ語の絵本を買ったりはしない。
ドイツの友人S女史がボクの娘たちに送ってくれたのだ。

その本は世界的な絵本作家ミヒャエル・エンデ作のもので、
なんと娘たちに宛てたエンデ氏直筆のサインが入っている。
ミュンヘン在住のボクの友人Sさんは、エンデさんの大の親友なのである。
エンデさんは残念ながら数年前に亡くなってしまったが、
彼は『モモ』という大ベストセラー作品を残していってくれた。

モモは眼の大きな女の子の名前だ。
ドイツの村の広場では村人たちが歌ったり踊ったりして楽しく暮らしていた。
そこに「時間泥棒」というふしぎな存在がやってきて、村人を説得する。
「毎日遊んでばかりいないで、もっと働きなさい。時間を節約して働けば、
金持ちや有名人になれますよ」

村人はなるほどと思い、広場に集まるのをやめ懸命に働き出す。
結果、ある人は金持ちになり、またある人は有名人になった。
しかしある日、ハッと気づく。あれほどにぎやかだった広場にはもう誰もいない。
みな、さびしくなってしまう。そこにモモが登場し、時間泥棒を退治して、
再び広場にかつてのにぎやかだった生活を取り戻す、というお話だ。

この『モモ』は働き蜂の日本人のために書かれたのではあるまいか、
と時々思うことがある。イタリア人みたいに食べたり歌ったり踊ったりしていたら、
国の経済が傾き、個々人の生活は決して豊かにならない。
が、何ものにも換えがたい「宝」を得ることはできる。
それは互いに友だち、仲間であるという共生感だ。

ボクは昔からお金というものにとんと縁がなく、女房には苦労をかけ通しだが、
恒産を持つことはむずかしくても、「心の恒産」なら持てそうな気がする。
年を取ってくると、むしろ心と心の結びつきといったものに関心が移っていく。
いっしょにお酒を飲んだり、歌を唄ったり、旅をしたりすることこそ、
生きることの真の意味ではないのか――そんなふうに思うようになる。

流行り言葉でいうと〝絆(きずな)〟ということになるのだろうか。
きょうも隣町のプールで、見ず知らずの人たちと軽口をたたき合いながら、
楽しいひとときを過ごしてきた。

プールにはいろんな人が来る。なかには足の不自由な人、半身マヒの人、
人工透析を受けている人、心臓にペースメーカーを埋め込んでいる人、
あるいは心の病(ボクもそう)に悩んでいる人、婚活中の人など実に様々だ。

そのほとんどが隠居した人で、時間泥棒に「もっと働け!」と言われることもないので、
おおらかというか、開き直っているというか、みな人生を半分降りちゃっているような、
どこか潔い、そしてまたすがすがしい顔をしている。

ひとりぼっちは限りなくさみしい。
階下に住むじいさんは、因業な性格が災いしてか、友だちがおらず、
いつもひとりぼっちだ。元は教師で、校長までやったと自慢していたが、
こんな教師に教わったら、生徒がとてつもなく不幸になりそう、
と思わせるような男で、ボクは今でも口をきかないし、挨拶もしない。
この男には、過去にずいぶんひどい目に遭わされてきたからだ。

食事のときに大切なのは、何を食べるかではなく、誰と食べるかである
とは『セネカ道徳書簡集』の中の一節だ。仲良く楽しく食べ合う「共食」こそ、
いま最も求められている生き方ではないのか。
というわけで、たまには色っぽいグラマー美人と〝共食(共食い?)〟したいな、
と夢想するボクであった。←バカ、一生夢想してろ!




←『モモ』を読んで、失った時間を取り戻してください

4 件のコメント:

人魚姫 さんのコメント...

労様こんにちは♪

色っぽくなくて、ごめんなさい(笑)

私はセミリタイアとでも言うのでしょうか。

今日はとお~~っても楽しい時間を
ありがとうございました。

婚活ねえ、.................。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

人魚姫様

あれっ? やっぱ読んでた?

いやあ、色っぽいですよ姫は。
色とりどりの服を着てるし……。

こちらこそありがとう。
ひとりで食事はさみしいものね。

時間泥棒は退治したから、
これからも歌ったり踊ったりして、
とことんバカになりましょう。

Nick's Bar さんのコメント...

ROUさん、こんにちは。

一段落しましたでしょうか。
ご同慶の至りでございます。

時間泥棒とは、思うに、「理性的で論理的な狂人」でしょう。

「毎日遊んでばかりいないで、もっと働きなさい。時間を節約して働けば、金持ちや有名人になれますよ」とはまさに正しく、否定の使用の無い物言いです。

では、果たしてそれが常人の気持ちにすーーっと入って行くものであるかというと、さに非ず。何かが足りない。

何が足りないって「気分」ですよ。理性でも論理でも補えない人の機微。

これがないやつは「狂人」です。まともに付き合ってはいけません。というより、普通、付き合えません。

ただ東京都千代田区の某所には左様な人種が跳梁跋扈しているような・・・

困ったもんです。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様

一段落もヘチマもありません。
毎日、寝る時間を惜しみ、
眼を真っ赤にして仕事に励んでおります。

それでも「金持ちや有名人」にはなれません。
何が足りないのでしょうか?
人間が優しすぎるのでしょうか?←自分で言うな!

NICKさんはたしかに人情の機微がわかる人です。でも、正常な人かというと、
やはり〝狂〟の字がふさわしい人
ではなかろうかと拝察いたします。

ボクは畸人変人凡人狂人軍人が大好きで、
周囲にはそんな人ばかりいます。

千代田区某所にいるような偏差値秀才とは
縁がありませんし、ボクは秀才というものを
ハナから毛嫌いしているので、
その種の人間は最初からボクには近づかない
ようなのです。

NICKさんは凡骨にして非凡、
才乏しくも、
そこには天与の才の匂いがします。←臭っせェ

お互い、怠け者でよかったね。