2013年11月29日金曜日

小林秀雄、没後30年

今年は小林秀雄の「生誕111年」かつ「没後30年」に当たるという。
ボクもいろんな本を読んできたが、いちばん熱中して読んだのは小林秀雄だろう。
青春期のほとんどを小林秀雄に捧げたといってもいい。これほど惚れた男は
後にも先にも小林しかいない。

小林秀雄を読むということは、後述するような周辺の人たちの本も読むということで、
それだけでも書棚の一つや二つは埋まってしまう。ボクのささやかな蔵書を〝派閥〟
別に分けてみると、「小林派」と「吉本(隆明)派」に大きく分かれ、その他弱小派閥が
群雄割拠する、といった状況だろうか。

学生時代、友と語らう時は決まって小林秀雄の話題だった。
ボクが一方的にしゃべりつづけ、憐れな友は一方的に聞き役にまわった。
ボクは小林秀雄という名のキツネに憑かれ、およそ10年もの間、
のぼせたような酩酊状態にあった。

小林のどこに魅きつけられたのか、今でもよく分からない。
先月亡くなった文芸評論家の秋山駿は、
《私は小林秀雄を読む。なぜ、どんな意味で、そこには何があるから、
私は読むのか。思えば、私は元気のないときに、自分に元気を与えるために、
それを読んだのである。読む者に元気を与えてくれる――それが小林秀雄の
言葉の、いわば文体の、非常な特徴であると思う》(『小林秀雄と中原中也』)
と述べている。

また、『小林秀雄』を書いた評論家の江藤淳も同様に、
《どのページを開いてみても、読むほどに、いつの間にか
かつてないようなかたちで、精神が躍動しはじめるのを感じて
おどろくにちがいない》
それはまるで《ダンスの名人といっしょに踊っているような》体験だ、
などと述べている。

両氏が言うように、小林の文体は読む者の精神を鼓舞するような構造になっている。
ボクは今でも精神の軸がブレそうになったり、弱気の虫が騒ぎそうになったとき、
ポッポ鳩山の「鳩左ブレ」を憎しみを込めて噛みくだきながら小林の全集をひもとく。
そう、小林の作品と出来損ないの「鳩左ブレ」はボクにエネルギーを注入してくれる
「リポビタンD」なのだ。

小林秀雄の周辺を彩る交友関係も、またボクの憬れだった。
中原中也、河上徹太郎、大岡昇平、中村光夫、永井龍男、今日出海、
安岡章太郎、富永太郎、白洲正子、梅原龍三郎、そして青山二郎。
見てくれ、この錚々たる顔ぶれを。それぞれがみな独自の光彩を放ちながら
屹立している。通称「青山学院」と呼ばれるサロンがこれだ。

青山学院の面々がよくとぐろを巻いていた銀座の寿司屋「きよ田」の
新津武昭さんに、ボクはかつて小林の酒席での行状を訊いたことがある
拙著『ぼくが料理人になったわけ』を参照してください)。
「当時、一流とされてた作家連が、小林さんの〝カラミ〟に堪えきれず、
オイオイ泣き出したりするんだから、小林さんの舌鋒たるやすさまじかった」
と、新津さんは懐かしそうに語ってくれたものだ。

小林秀雄は女性関係にも彩りがあった。
中原中也の愛人・長谷川泰子を横取りしてしまうエピソードはあまりに有名だが、
〝ムー公〟こと坂本睦子との関係もまた複雑だった。一時、青山二郎と同棲していた
こともあるが、河上徹太郎や大岡昇平とも愛人関係にあった。青山曰く、
「かなり面倒な魅力を持った女」だったようで、小林は求婚し、
いったんは受け入れられるが、別の男(オリンピック選手)と逃げてしまう。
そして1958年、ムー公は睡眠薬を飲んで自殺してしまう。享年43。

高橋昌一郞の『小林秀雄の哲学』によると、
《坂本の通夜には、小林、河上、大岡をはじめ、二十人以上の文壇関係者が集まり、
大岡は途中から号泣したという》

小林は書いている。
女は俺の成熟する場所だった。書物に傍点をほどこしては
この世を理解していこうとした俺の小癪な夢を一挙に破ってくれた
(『Xへの手紙』)

小林はいつだって命がけだった。
戦後、「戦争を肯定した」かどで、批判にさらされるが、雑誌の座談会の中で、
こんな発言をする。
《僕は政治的には無智な一国民として事変に処した。黙って処した。
それについて今は何の後悔もしていない……僕は無智だから反省なぞしない。
利巧な奴はたんと反省してみるがいいじゃないか

戦後、文芸銃後運動を発案したとしてGHQにより「公職追放」された作家・菊池寛も、
《僕を戦争協力者として追放するなんて、アメリカの恥辱だよ。戦争になれば、
その勝利のために尽くすのはアメリカ人だろうが日本人だろうが、国民に変わりなく
当然の義務だ。僕はこんな戦争に賛成ではなかったが、始まった以上、全力を尽くして
負けないように努めるのは当たり前だし、むしろそれを誇りに思っている。僕のような
リベラルな男を追放するなんて、バカバカしいね》
と小林と同じような発言をしている。

本棚にある小林秀雄全集はもうボロボロだ。
どのページにも〝傍線〟がほどこされ、つまらぬ書き込みがしてある。
ふられるとストーカーに変じたりする、きょうびの女々しい男などには分かるまいが、
男と女が真剣に惚れ合えば、そこは地獄にも極楽にもなる成熟の場と化す。

ああ、俺の小癪な夢を破ってくれる女性は、
いったいいつ現れるのだろう(一生言ってなさい!)。
早く出てきてくれないと、死に神に先を越されてしまいそうだよ。嗚呼!



2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

嶋中労さま

文筆業の方々って、
めんどくせぇ人種ですね。

物書きとのSEX(色恋)って、
何の魅力があるのかしら?

先日、
とある場所で作家先生たちと同席しましたけど、
『青春のMON』さんはボクの乳首ぐらいの上背だし、
『TOMOよ、静かに瞑れ』さんは、
三頭身のナルシストだし、
『失楽円』さんは、
かなり老化が進行しておりました。

知性が無いモノには分からしまへんニャァ。

よかった家内制ブルーカラーで。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

匿名様
そりゃそうよ。
180㎝、105キロの巨漢を前にしたら、
だれだって三頭身の乳首ですよ(笑)。

でも、それと色恋沙汰とは関係ない。
ただ、どいつもこいつもややこしい奴
ばかりだから、スカッとした恋はできないだろうな。

ボクも作家先生と銀座のクラブにご一緒した
ことが何度かあるけど、川上宗薫センセー
だって、とても絶倫男には見えなかったもんね。

ボクは文筆業ではなく「分泌業」だから
あんたと同じ(笑)。身体中から変なもの
出してる。てなわけだから、毛嫌いしないで、これからもよろしくたのみますよ。