2013年12月23日月曜日

大坊珈琲店に別れを告げて

たったいま、原宿・表参道から戻ってきたところ。うゥ、さぶい。
祝日で、おまけにクリスマスを控えているからか、やけに人出が多かった。
夕暮れ時になると、欅並木にはシャンパンゴールドのイルミネーションが灯り、
原宿の街はいやが上にも幻想的な雰囲気に包まれる。
もっとも、非キリスト教徒のあっしには、「まったく関係ねえことでござんす」

こんな寒空に膝痛・腰痛持ちが、びっこを引き引き何しに行ったのか。
決まってるじゃありませんか、別れを告げにいったんでござんすよ。

今日は「大坊珈琲店」の閉店日。昭和50年から続いた日本有数の名店が、
ビル取り壊しのためひとまず幕を引く。ボクはそれほど熱心な客ではなかったが、
店主の大坊勝次氏とは長~いつき合い。オープンしてすぐに取材させてもらったし、
拙著『コーヒーの鬼がゆく』にも登場してもらった。

いまでこそ白髪で、髪もまばらになってきたが(本人は脱毛に悩んでた)、
開店当時の大坊氏は僧坊から脱け出てきたみたいな坊主頭ながら、
髪も黒々としていて、肌もつやつやだった(←当たり前だ)。
ひそひそ声で話すのは相変わらずで、何と言おう、独特の〝間〟があった。

その大坊氏の生前の姿を目に焼きつけておこうと(←まだピンピンしてるよ)、
勇躍出かけてみたのだが、店(2階にあります)に続く狭く細い階段はすでに人・人・人。
店内に入りきれず、立ちんぼしたままウェイティングだ。
みなブライアン・フリーマントルを気どって、大坊に別れを告げに来た人ばかりである。

40分ほど待っただろうか、カウンター席に通された。
大坊氏は亡びゆく髪をふり乱して抽出に没頭。その周囲は空気がピント張りつめていて、
しわぶきひとつできないような雰囲気。こっちも声をかけるなんて無粋なことはせず、
黙ってかしこまっている。注文したのはいつもの3番(20グラム、100cc)だ。

顔をあげた大坊氏が知的な風貌のイケメン紳士を発見(ヘヘヘ……ボクのことです)。
ニコリと笑って二人してアイコンタクト。言葉は交わさない。

カウンター内には大坊氏の他に奥さんの恵子さんとジャニーズ系スタッフが3名。
いかんせん狭苦しいので、5人でおしくらまんじゅうをやっている。
ああ、こうしてまた「昭和」が消えてゆくのか。ボクの頭の中では、
吉祥寺=もか」と同様、「表参道=大坊珈琲店」という等式があったものだから、
大坊が消えてしまうと、この界隈がすっぽりボクの頭の中の地図から消え去ってしまう。
いつまで恋々としていても始まらないが、この寂寥感はいかんともしがたい。

とろりとしたいつもの深煎りコーヒーを堪能したボクは、
おセンチになりそうな気分を断ち切るようにして席を立った。
そして再び店主に目で挨拶。(サヨウナラ。また会えるよね)

店の外にはにぎやかな師走の風が吹いている。
ボクはマフラーに口もとをうずめ、「さて、帰るとするか」とひとり呟いた。




←大坊の近くにアトリエを構えていた
牧野邦夫の絵。入口入ってすぐ右の
壁に掛かっている。圧倒的な存在感。
この絵、いいよなァ。













 

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