2013年12月21日土曜日

末路哀れは覚悟の前

長女の部屋をのぞいたら寝袋やら着替えやらが雑然と散らかっている。
机の上にはモロッコ関係の本が数冊。いよいよもって怪しい。
〝片雲の風に誘われて症候群〟がまたまた首をもたげたか。
つい先だって、ペルーのマチュピチュ遺跡を見てきたばかりだというのに、
持病のようになってしまった漂泊願望癖。娘の生き方だからとやかく言うつもりはないが、
年に4回も5回も海外へ飛び出す、その心底がよくわからない。

ボクは旅行というものにすっかり興味を失ってしまっている。
若い頃に遊びや仕事で日本国中をいやというほど回ったというのもあるが、
歳のせいなのか「何でも見てやろう」といった類の好奇心が、
ひどく薄れてしまったというのもひとつある。
それに膝と腰がいかれてしまって、もう物理的に遠出はできない。
半径500メートル以内の生活圏で生きていくしかないのだ。

わが家は全員、独立採算制で、自分の食いぶちは自分で稼がなくてはならない。
オンナ3匹はめっぽう稼ぎがよくて、(推測だが)かなりリッチな生活をしている。
黒一点のボクは相変わらず貧乏で、手首が腱鞘炎になるくらいキーボードを
叩いても、手元に入ってくるギャラはいつだって目腐れ金だ。
〝100円ライター〟と自嘲するゆえんである。

これまでにいったい何冊の本を書いただろう。
自著は8冊と少ないが、ゴーストで書いた本はけっこうな数だ。
先日、蔵書を整理していたら、『チンコロ姐ちゃん』で有名な漫画家・富永一朗が
書いた闘病記『ボクの愛する糖尿病』なんて本が出てきた。ああ、懐かしい。
もう時効だから言っちゃうが、これもボクが代筆した本である。

富永さんとはよく新宿2丁目で飲んだ。というより鞄持ちみたいな役回りで、
そばにくっついていただけである。どんな店に行ったのか、まるで憶えていない。
いつも数軒ハシゴをするのだが、狭苦しい路地を行ったり来たり。
こっちはすっかり酩酊していて、いつものよう記憶がカンペキに飛んでいる。
まさか十数年後、〝いっちゃん〟の本を代筆するとは想像だにしなかった。

話変わって、いま、上方落語界の重鎮・桂米朝の『桂米朝集成』全4巻(岩波書店)
というのを読んでいる。これがすこぶる面白い。司馬遼太郎が米朝落語をこよなく
愛したというが、これほど博識の男だとは知らなかった。
漢籍の素養も相当なものである(大東文化学院で学んだ)。

米朝の師匠・桂米団治はよくこんなことを言っていたという。
《噺家ってなもんはな、米一粒よう作らん、釘一本よう作らんのに、
酒がええの悪いのてなことを言うて、好きなことをして一生送るんや。
そやさかい覚悟せなあかん。末路哀れは覚悟の前やで》

いいことを言いますな。まさにそう。「噺家」を「物書き」に置き換えたってそのまま
意味は通ずる。お互い立派な()〝虚業〟やさかい、末路哀れは覚悟の前や。
物書きなんて米一粒も作れない。ただ言葉の符牒を操って世間を煙に巻くだけ。
そういえば、野坂昭如も言ってたな。俺が唯一できる造形物はウンコだけだと。
なべてオトコはスカトロジストなのだと。

ペルーだモロッコだと、世界中を飛び回るのもいいが、
家でじっくり米朝の語りに耳をすますのもいい。
米朝の本を読んでいたら、嫌いだった関西弁がすっかり好きになってしまった。




←人間国宝の桂米朝師匠。
桂米団治の他に正岡容(いるる)も
米朝の師匠筋。この正岡という男も
めちゃくちゃな破滅型だった。正岡の
弟子は他に小沢昭一や加藤武、
作家の都筑道夫などがいる。




 

8 件のコメント:

木蘭 さんのコメント...

しまふくろうさま、こんばんは。(*^^*)

金魚の飼育係、木蘭でございます。

今日はずいぶんたくさんのエサをあげましたが~すべて平らげてくれました。

たべっぷりがいいですね。(笑)


私はこの年になっても一度も海外旅行の経験がありません。(^_^;)

常磐ハワイアンセンター(今はスパリゾート・ハワイアンズでしたっけ)でさえ行ったことがありません。(笑)

またお伊勢さんや出雲大社も行ってないので、死ぬまでには一度、と思っています。

お伊勢さんに行くなら、多賀神社も行かないといけませんね。

「お伊勢行くならお多賀へ参れ、お伊勢お多賀の子じゃないか」と師匠から教えて頂きました。(*^^*)


噺家さんは、みなさん頭のよい方ばかりですね。
あんなに長いお話がいくつも頭の中に入っているのですもの。

私はまだ寿限無の名前さえ全部言えません。(笑)


だいぶ寒くなってきましたね。

無理しやんといて下さいね(奈良の友達の言い方)






ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

木蘭様
おはようございます。

熱心なるエサやり、ご苦労さまです。
うちの金魚はしつけが行き届いておりますので、偏食もなく、与えられたものはすべていただきます。とりわけ木蘭さん手ずからの
エサであれば、もう欣喜雀躍、大喜びで平らげるはずであります。

さて旅行の話ですが、ボクが小さい頃、わが家はとても貧しく、旅行に行った記憶がほとんどありません。わずかに「船橋ヘルスセンター」に一晩泊まったことがあって、そのことが唯一といえるくらいの〝大旅行〟でありました。

お伊勢参りの話が出ましたが、僧侶も神社に
お参りするんですね。調べてみたら、阿弥陀如来だけを拝む浄土真宗以外の宗派なら神社に参拝することもあるそうですね。寡聞にして知りませんでした。

無理しやんといてくださいね――やわらかい響きですね。木蘭さんに似合いそう。

ギックリ腰がよくなったら、またおじゃまします。寒いので、ホッカイロを抱いて飛んでいきましょうかね。

田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま

おはようございます。

『美ししき人へ』の埼玉の田舎者です。

今回の記事を読ませていただき本の中の
一節を想い出し読み返してみましたので
一部分ここに写させていただきます。


物事を見るのと見ないのとは、たいへ
んな違いである。物事を見て歩く多く
の旅人たちは、本当は何も見ていない。
何も見ない多くの人たちは、本当は多
くのものを見ている。

林悟堂の『生活の発見』より

若いから出来る娘さんの旅行とても羨ま
しいです。我が家は小学生が二人います
ので夏休みにキャンプなどに出かけます
が帰宅すると安心し我が家が一番と思う
のです。年を重ねてそうなったのか、性
格かは分かりませんが。

年の瀬で忙しい日々の事でしょうが
お体をお大事になさってください。

質実剛健の人へ

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

「美しき人へ」のお好きな田舎者様

Mさんはこの〝美しき人〟の枕詞にホトホト参っているご様子。そろそろ勘弁してやってくださいませんか? 本人も相当反省しているようですから(笑)。

ついでにボクへの「質実剛健」もやめてくださいな。「臆病小心」とか「優柔不断」とか、ボクにはもっとふさわしい言葉があります。いずれにしろ枕詞を外してくれるとありがたいです。

林梧堂の言葉をボク流に直すと、
《何も見ないボクは、やっぱり何も見ていない》ということになりましょうか(笑)。

ボクは実は出たがり屋で、ヒマさえあれば
外出する人間なんです。でも膝痛と腰痛の
二重苦で、とうとう〝ひきこもり〟になって
しまいました。

ロボコップみたいに膝に人工関節でも埋め
こめば、跳んだりはねたりできるようになるかもしれませんが、今はただリハビリに励むのみ。

子供さんはまだ小学生なんですね。可愛い盛りですね。しっかり愛情を注ぎ、しっかり躾けて、「国際人」などというマヌケなものではない、立派な日本人に育ててください。

田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま

こんにちは!

美しき人への埼玉の田舎者です。

お二人への『美しき人へ、質実剛健の人へ』が
迷惑になるようなので今後は使いません。

ですが、お二人の文章を読ませていた
だくとともそんな言葉に引っ掛からな
い世界に生きているように感じています。
今までに指摘を受けた事が無かった
ものですから。お詫び申し上げます。
すみませんでした。

これからもブログを楽しみにしており
ますのでお体をお大事になさってください。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

埼玉の田舎者様

おーい、Mさ~ん、聞いてるか~い?
田舎者さんがやっと聞き入れてくれたヨーォ(笑)。これで晴れてお天道様の下を歩けますヨーィ。

というわけで、ようやく苦しみの日々から解放されました。恩赦を与えてくだすって、どうもありがとね。

ところで、田舎者さんは埼玉のどこ出身?
まさか川越じゃあないでしょうね。

田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま

こんばんは!

田舎者は埼玉県東松山市の百姓です。

眼の前は田圃と言う恵まれた環境に生き
てきました。今も生きています。これか
らも生きて行きます。

華やかな世界に憧れた時もありましたが
亡くなった師からの言葉
『田舎者は天まで伸びる』から使わせて
いただきました。

これからは迷惑のかからぬようにいたし
ます。

曹洞宗の檀家ですが
メリー・クリスマス

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

田舎者様

東松山ですか。ボクは川越の芋兄ちゃんです。

田舎はいいですよね。
華やかな世界(どんな世界なのか知りませんが)というのは、虚飾にまみれていそうで、
なんだか疲れそう。

そこそこ華があって、そこそこ鄙びている、
というのがいいですね。

ボクは神道&天台宗&似非クリスチャンですが、ハッピー・ホリデー!